時空の越境

 

 洋画家の水谷誠孝さんは、近年メリーゴーランドをモチーフにした多彩な作品を発表している。水谷さんが描くメリーゴーランドは、自由に夜空を飛翔したり、草原や湖沼に憩っていたりする。

 メリーゴーランドは回転木馬とも言い、遊園地で子供たちなどが興じる遊具である。それは日常を離れた慰安のために、ひとときその場を廻りゆくものである。場所と時間は規律的に拘束されているが、メルヘンの世界へと私たちをいざなう。水谷さんもそのメルヘンの世界へ導かれ、時間と空間の境界を越えて想像の翼を広げ、シャガールの作品にも見受けられる存在の空中への浮遊といった非現実を現前化させる。水谷さんは豊かな色彩を駆使して描くコロリストであるが、作柄は明晰さを重んじて曖昧さを残さない。秩序を重んじながら、秩序からの逸脱、すなわち自由を志向している。

 今回の展覧会には、円形の作品も何点か展示されるようである。そこでは、背景の夜空の前をメリーゴーランドの馬たちが横切ってゆく。円は時計や磁石の盤のイメージを孕み、時空を飛翔していく夢幻性がこれらの作品の持ち味となっている。

 水谷さんは夢物語的なイメージを反芻しながら、憩いの空間を描出してゆく。オディロン・ルドンは「見えるものの論理を見えないものに従わせ、あり得べきものの法則に従いながら、・・・・・あり得ないようなものを創造する」と言った。水谷さんの作品もこのルドンの言葉のごとく、夢と現実の世界を架橋しながら、時空を越境した安らぎを創発している。

 

美術評論家

井出真一路