気配を潜ませるミステリアスな空間

 

 かつて学生の制作の場であるアトリエを巡回している時、特に印象に残る一枚の絵がありました。公園の砂場に色とりどりの玩具が散乱した風景画で、後になって水谷君の作品だと知りました。彼が大学2年か3年の頃だったと思います。

  どうしてその絵が気になったのか考えてみると、その砂場で少し前まで子供たちが遊んでいたであろう気配を感じさせ、活気やぬくもりが心地よい余韻を残していたからでしょう。その気配は見る者に様々な想像をさせる。時の流れや残像の表現に、作者の個性を感じたものでした。その後の学生時代を通して、公園の遊具をモチーフにした非現実的、詩的世界を表現していきます。人のいない空間に人の気配を潜ませるミステリアスな空間表現が水谷君の持ち味であり、このテーマを今日まで追求し続けています。モチーフを自分に引き寄せたり離したりの思考、金箔などの素材の研究、試行錯誤を繰り返しながらの制作は近年になり、宇宙空間を意識した拡がりのある世界に発展しています。現在、水谷君は、大学で児童教育の指導、研究を行う立場にあります。彼のテーマとする遊園地や公園の世界は子供の居場所であり、相互に関係する分野に属しています。絵画的表現を児童心理教育が互いによい影響を与え、より深い自由な空間を求めて世界を拡げていかれますことを期待しています。

 

愛知県立芸術大学名誉教授

国画会会員

久保田 裕